大阪高等裁判所 昭和44年(ラ)41号 決定 1969年4月02日
理由
一 抗告人両名は、「原決定を取消す。」との裁判を求め、抗告人会社は別紙抗告の理由のとおり主張した。
二 記録によると、鑑定人は、昭和四二年九月二七日付不動産評価鑑定書において、本件建物(建坪一六坪七合二勺二階坪一一坪八合二勺)につき建物価格を賃貸中であることを考慮し坪当り金九、〇〇〇円、土地利用権価格を延坪当り金一一万円とみてその評価額を金三三九万六二六〇円と定め、競売裁判所は右金額を最低競売価額とする公告をして競売したこと、本件競売の目的物件は建物のみであるので、建物所有者が土地につき如何なる占有権原を有するかについては、調査されなかつたことが認められる。しかし、抗告会社が競売期日後に提出した資料によると、抗告人森田博は本件建物敷地二八坪を矢野千恵子より賃借していたが、右矢野千恵子は、同抗告人が昭和三五年三月一二日に成立した調停調書に基づく昭和三五年四月一日以降の賃料を支払わないとして、昭和四三年一一月一九日到達の書面をもつて、同抗告人に対し、催告並に条件付契約解除の意思表示をなし、同月二四日の経過と共に賃貸借契約が終了したとして、同抗告人及び本件建物居住者三名を相手取り、同年一二月六日大阪地方裁判所に建物収去土地明渡等請求訴訟(同庁昭和四三年(ワ)第七三七二号事件)を提起していることが認められる。鑑定人が延坪当り一一万円と評価する土地利用権が借地権等の土地使用権を意味するものと思われ、その鑑定時点からして、右評価には前記土地賃貸借契約の解除、建物収去土地明渡訴訟の提起の各事実が考慮されていないことは明かである。ところで、借地法九条の三の規定の存する現行法の下では、競落時点に借地権が存するか否かは、競落人その他の競売上の利害関係人にとつて関心事であるばかりでなく、最低競売価額を定めるためにも極めて重要な事項である。勿論右賃貸人の契約解除が有効であるかどうか、したがつて借地権が存するかどうかは、建物の競売に関する競売期日の公告の要件とされてはいない。しかし、そのことは、競売裁判所が建物の競売に当つて借地権の存否を不問にしてよいということではない。借地権の存否が最低競売価額を決定する重要な要素をなす以上、又その存否をめぐつて紛争の存する以上、競売裁判所としては、一応借地権の存否を判定し、その判定に則した建物の評価を求めるべきである。ただ、この点に関する競売裁判所の判定は既判力をもたないこと勿論であり、これにともなう危険と事後処理が競落人に帰するにすぎない。借地権の契約解除に関する右事実は鑑定人の評価に重大な影響を及ぼすものであるから、原裁判所としては、借地権存否に関する一応の判定をしたうえ、鑑定人に対し評価の指針を与えて、評価させるべきである。本件において前記鑑定人の評価を基礎とした競売期日の公告中の最低競売価額は上記の考慮を欠いており、結局適法な最低競売価額の公告がなされなかつたことに帰する。